








**「蒼き峰に呼ばれて」**
峰々は朝の光に溶けて静かに佇む
足跡は霧に濡れた小径を縫い、宿の灯りがちらちらと揺れる
「まだ帰らないで ここにいなさい」
一人の男がポケットに手を突っ込み、歩を進める
山道は足音を覚えている
「迷ったな」と過去がそっとつぶやく
「戻れる 戻れる」
風は真っ直ぐすぎる声で
「まだ愛しているだろ」と突きつける
「隠せない 隠せない」
彼はため息をひとつ吐き、
心の奥の声を押し殺す
暖簾が揺れて「若かった」と笑う
「あの頃 あの頃」
峰は黙って男を見守り、
過去と未来が交錯する瞬間を映す
「まだいる まだいる」
思い出の場所で、彼は気づく
忘れていた想いが背中を押していることに
「まだ愛してる まだ愛してる」
声は過去から、未来を叩く
「進め 進め」
蒼き峰は揺るがず、彼の決断を見届ける
そして男はうなずき、歩を進める
霧に濡れた小径は、過ぎ去った日々を映す
赤い布切れが宙を舞い、忘れかけた笑い声を揺らす
「まだ響いてる まだ響いてる」
彼は手探りでポケットの欠けた鍵を取り出し、
過去と未来の重みを抱える
古い箱が静かに震え、開かれる時を待つ
紙切れひとつで、彼の心は一瞬ひっくり返る
過去の自分と向き合う瞬間
「変われる 変われる」
「誰を想い、何を抱えてきたのか」
峰は問いかけずとも答えを知る
「その人を その人を」
彼はぶっきらぼうに肩をすくめる
「……分かってる」
しかし瞳の奥で感情がほどけていく
思い出の場所で、彼は自分と向き合った
過去と未来、想いを抱えたまま歩き出す
蒼き峰は無言で背を押し、
決意を胸に男は歩を進める
“To love, to love”
霧に濡れた小径に足音が重なり、朝の光と溶ける
「ひとつになる ひとつになる」
灯りは静かに彼を照らし、
誰かを想う気持ちと過去の自分を抱え、
彼は蒼き峰を背に歩いていく
歩いていく
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