








**「山頂の沈黙」**
霧が足元を呑みこみ 世界は白に閉ざされる
湿った土の匂いが 胸の奥まで入り込む
言えなかった言葉は 喉の奥で石のように転がり
息をするたび 重さを増してゆく
「誇りなのか」「臆病なのか」
自分に問いかけては 足を進める
風が頬を打ち あなたの声をさらい
枝葉が震えて 答えを返さない
山よ 教えてくれ
愛は試練か 赦しか
冷たい岩を 掴むこの手に
まだ触れてほしい あなたの温度を
雨粒が額を叩き 視界を溶かしてゆく
「家族を裏切れない」と あなたの声が揺れた
その言葉に縛られて 私はただ黙っていた
心だけが 嵐のように叫んでいた
「愛か」「義務か」
「誇りか」「赦しか」
問いを繰り返すほどに 足は重くなる
霧の奥に あなたの背中が揺れる
山よ 答えてくれ
試されているのは 私の心か
岩肌に爪を立てながら
それでも あなたを追いかけている
置き去りにできない 濡れた手紙
「あなたを愛している」
その一行が 胸を焼き続ける
嵐の音にかき消されても
私は声を張り上げて 呼んでいた
山よ 受け止めてくれ
誤解も偏見も 過去の影も
すべてここに置き去りにして
あなたの手を つかむために登る
霧が晴れて 陽が差す山頂
二つの影が ようやく重なった
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