








**「深夜タクシー、雨の匂い」**
メーターの赤が滲む夜
ワイパーが孤独を切り裂く
バックミラーに映る街
どこへ行くのか 俺は知らない
窓を開ければ雨の匂い
助手席には冷めた缶コーヒー
「どちらまで?」と尋ねる声
答えはいつも曖昧なまま
赤信号が長すぎる
流れるラジオも途切れそうだ
「お客さん、静かですね」
無言のまま、闇が応える
深夜タクシー 走る影
酔いどれた街を横切って
捨てられた夢と嘘を乗せ
誰かの朝へと送り届ける
曲がり角で手を振る男
千鳥足で笑っている
ドアが開くなり肩を叩く
「運ちゃん、もう帰りたいだろ?」
酒の匂いと呂律のズレ
「兄ちゃん、景気はどうだい?」
軽く流してアクセル踏む
酔いが冷めれば忘れる会話
赤信号がまた一つ
吐息混じりの独り言
「この街も変わったよな」
バックミラー越しの影
深夜タクシー 孤独の影
行き場のない声を乗せて
降りるときに残るのは
くしゃくしゃの千円札だけ
シートに残る雨の滴
「またな」と言われたけど
名前も知らないままで
夜の帳に溶けていく
深夜タクシー 走り続ける
誰かの終わりと始まりの間
今夜もまた、繰り返される
行き先のない物語
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