








**「夏の尾根で」**
風が揺らすザックのチャック カラカラ鳴ってる
汗ばんだ手のひら 握ったまんま離さない
朝イチのロープウェイ 眠そうな顔で
「早すぎじゃね?」って笑う君に
「山頂の景色はマジで別格だから」
根拠なく自信満々で言ってみた
蝉の声と入道雲 まだ夏って顔してるけど
木陰抜けた先は 風がちょっと冷たくて
君の頬も 少し赤く染まってた
水筒の冷たい水 回し飲みしながら
「これがデートって笑われそうだな」
って言ったら君が
「普通が一番、でしょ?」って肩ぶつけてきた
夏の終わりの尾根で 二人で息切らして
同じ景色を見てるだけで 未来が見える気がした
汗と風の匂いに 重なった笑い声
なんかもうこれだけでいいや って思ったんだよ
山頂の鐘がカランって鳴った瞬間
君の髪が強い風でふわっと舞った
スマホじゃ絶対伝わらない青さ
でも俺はシャッター切る 何回も何回も
ポケットから出てきた チョコがちょっと溶けてて
君が笑いながら「これ食べかけね」って差し出す
その指先 日焼けしてんのが
やけにまぶしく見えた
「下りはきっと長いよ」って君が言う
「それでもいい」って俺は返す
だってさ、この道が
君とならどこまでも続いてほしいから
夏の終わりの尾根で 二人で息切らして
同じ空の下にいるだけで 世界が広がってく
ザックの重ささえ なんか嬉しくなるんだ
だってさ、君の隣ってだけで 全部意味になる
もし雷雲が近づいて 急に雨が落ちても
俺が前に立つから 君は笑ってて
風に消えそうな声で 君が言った「ありがと」
その一言で 心臓が一気に走り出す
夏の終わりの尾根で 二人で見下ろした街
あの光のひとつひとつに 未来の俺らを重ねた
握った手の温度が 夕焼けより熱くて
夏が終わるのがちょっとだけ 悔しくなったんだ
帰り道 薄暗い森の中で
君がぽそっと「また来ようね」って
その声が もう次の季節の始まりに聞こえた
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