








**「君の影を越えて」**
君はいつも 靴紐を結ぶのが遅くて
その間に僕は 水筒を二人分満たした
「急がなくていいよ」と笑う癖も
好きなところのひとつだったんだ
君は汗をかいても 顔を拭かずに
そのまま笑うから 余計に眩しかった
甘い物が好きで 山小屋のチョコを
子供みたいに大事そうに分け合ったね
でも君は 高い橋が苦手で
吊り橋の上で 僕の腕を掴んだ
その震える手の温もりが
今も離れないまま
稜線に立つ君の影
強い風に 少し傾いていた
もしあの時 振り返っていたら
君を失わずに済んだのだろうか
雲より高い空に 叫んでも
答えは風に ちぎれて消える
ただ君の声が 胸を裂いてゆく
君は誰より まっすぐで強くて
誰も置いていかないのが信条だった
それが君の得意で 僕の憧れで
けれどその優しさが 君を遠くへ連れて行った
山の上 酸素の薄い空気の中
僕は君を呼び続けた
返事はなく 雪解け水の流れる音だけが
耳に刺さった
身体はまだここにあるのに
心はどこにも届かない
涙で滲む景色の中で
君の笑顔が なぜか鮮やかに蘇る
「弱音を吐け」と言った声が
僕を立ち上がらせる
君の影を越えて 生きてゆくために
君が嫌っていた 人混みの街を歩いて
ふと振り返るたびに 風の匂いを探す
君と歩いた山道のリズムが
まだ僕の足を動かしている
君を失っても 終わりじゃない
胸の奥で生きてる その声が導く
どんな痛みも 越えてゆける
雲より高く 叫んでいたい
「僕はまだ 君と生きている」
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