








**「ピンネシリの空に」**
ゲートを越えて 舗装の坂道
ただ静かに 二人は歩き出す
朝の森は 濡れた匂いを纏い
まだ眠る石狩平野を背にして
登るほどに 霧は深く
レーダードームも 白に沈む
「きっと晴れるよ」 小さな声が
足取りを支える 灯のように
山頂は ただ風の音
見えぬ景色が 二人を抱く
そこにあるはずの大雪山も
増毛の稜線も 雲の向こう
ピンネシリよ ガスに包まれ
祈りのように 立ち尽くす
見えぬものこそ 記憶に残り
ふたりの胸を 結び合わせる
稜線を南へ 道は細く
霧の帳を抜け出すたび
足元に広がる 花の帯
**エゾカンゾウ チシマフウロ**
霧に濡れて 揺れていた
「見えないけど きれいだね」
笑い声が 風に溶け
マチネシリの峰も ガスに霞み
ただ確かなのは 手のぬくもり
マチネシリよ 風を纏い
見せぬ景色で 二人を試す
花に囲まれ 霧に包まれ
歩む姿が 未来を描く
下山の道で 霧はほどけ
「ほら、青空だ」 指差す先に
石狩平野の光が広がり
徳富ダムの水面がきらめく
林道を戻る影は長く
笑い声が 森に響く
振り返れば 白い雲
見上げれば 蒼の大空
ピンネシリよ その頂に
今日の祈りを置いてきた
見えぬ景色も 確かな記憶
マチネシリよ 風に揺れて
二人の声を 運んでくれ
霧の中で交わした言葉
晴れわたる空に溶けてゆく
「また来よう」 と笑いあった
あの稜線を 思い出しながら
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