








**「春の雪が解ける頃」**
毎年 春の雪が
音もなく解けてゆく頃
わたしはここに戻ってくる
ふたりで決めた避難小屋へ
あなたが最後に笑った
あの春を胸に抱いて
鍵はかけないまま
扉を少しだけ開けておくの
いつか霧の向こうから
あなたが歩いてくる気がして
山桜が咲くたび
あの声がよみがえる
どうか この春こそ
あの笑顔を見せてほしい
長い冬を越えた心で
待つことしかできないの
あなたがいない この小屋に
今年も灯をともした
薪がしけって燃えにくくて
それでも朝は来るのに
あなたの足音だけが
まだ聞こえてこない
日記に同じ文字
「今日も来なかった」と書いて
でも消せない この想いだけ
風にまかせて閉じこめた
「待たないで」って言ったのに
最後のキスが強すぎて
心ごとこの山に
置いていったじゃない
ねぇ この春こそ
あの瞳を映してほしい
名もない花が咲いても
あなたがいなきゃ色はない
忘れられるほどなら
こんなに泣きはしない
もしかして もう
あなたは別の空の下
この山を覚えてなくても
わたしは ここにいるから
春の雪が解ける頃
またここで 灯をともす
誰のためか わからなくても
あなたが帰れるように
扉はずっと開けたまま
心は今も 止まったまま
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