








**「彼のいる山」**
朝焼けが 靴に落ちて
ひとりで山道をのぼってる
ザックの底から出てきた
あの人の手紙、もう読んだはずなのに
「ここで待ってる」って書いてあった
あの避難小屋、今も変わらない
でもそれが どの季節のことだったか
わからなくなるくらい 時が流れてた
彼は言った 「この山は話す」って
風が耳元で囁くとき
あの声を思い出すのがつらくて
わざとラジオのボリュームをあげた
彼の好きだった 青いチェックのシャツ
着ても寒くて 心の奥が震える
すれ違った登山者に笑ってみせても
あたしの笑顔は 山の霧に溶けた
「一緒に見よう」って言ってた景色が
目の前に広がってるのに
その肩がここにないだけで
何も見えない 何も感じられない
だけど 山はまだ あの声を憶えてる
夕暮れの向こうに 呼ばれた気がした
走り出した足が止まらない
どこにいなくたって あたしはここにいるよ
置いてきたはずの「さよなら」が
小石にぶつかって 響いてる
この胸の奥で 何度でも
「また会おう」って 言ってる
「また来るよ、彼のいる山へ」
「さよなら」
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