








**「氷の塔」**
寒い夜明けに目をこすり
テントの影に心を置いて
あいつの息は白く、荒く
俺の手は凍えて動かねぇ
「もう少しで…」って何度も言った
だけど、そいつは戻らなかった
K2の尾根 風が叫んでた
その声が 今も耳に残る
高地に置き去りにしたのは
あいつの身体(からだ)じゃなくて
希望ってやつかもしれねぇ
帰り道 足音が重くなる
ザイルを引けば 夢がきしむ
眠るなよって 誰かが叫ぶ
だが答える声はなく
氷の塔だけが空に立ってた
下山の途中 何度も
振り返っちまった
誰かがそこに立ってる気がして
吹雪の幻にすがった
真っ白な世界に
名前を置いてきた
生きて戻るってことが
あいつの夢だったはずなのに
医者だった俺に
できたのは見守ることだけ
死と紙一重の深夜(よる)
あいつの目が俺に語ってた
「もういいさ、行け」って言ったんだ
唇が動いた気がしたんだ
その瞬間、俺は知ったんだ
ここは登る場所じゃねぇってことを
風にさらわれた
あいつの声が
今も耳元で囁く
「お前は生きろ」ってさ
俺はこの山に
心を置いてきた
戻ってきた俺の中で
あいつが今も生きてるんだ
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