








**「雲の上で会いましょう」**
河童橋を渡って 梓川沿いを歩いた
朝露で濡れた木道 靴の音だけが響く
誰かと話すでもなく ただひとりきり
でも不思議と 寂しくなかったよ
山がそこにいるだけで
じんわりと背中を押してくれる
何かが始まるわけじゃないけど
「ここに来てよかったな」って思えるの
雲の上で会いましょう なんて言葉が
冗談じゃなく 本当になりそうで
白い稜線 夏の空
ここでは全部が ちゃんと呼吸してる
忘れてた名前も 言えなかった気持ちも
風にまかせて 流れていけばいい
それでいいよね?って
山がうなずいてくれた
樹林帯を抜けたとき 光がふわっと差し込んで
ああ、今日ってこんなにも 透明だったんだ
涸沢のテントが見えてきた頃
心の中も 少し片づいた気がした
誰に見せるわけでもない笑顔が
ぽろっとこぼれて そのまま風に乗った
山って なんにも言わないけど
ちゃんと聞いてくれてるんだね
雲の上で会いましょう わたしのままで
何も足さずに 何も飾らずに
冷たい空気 あったかい陽ざし
今だけをちゃんと感じていたい
忘れてた痛みも 歩いてきた理由も
山が抱きしめて 軽くしてくれる
だからまた 戻ってくるよ
何も持たずに ただここに
じゃあね、って山に言った
振り返らずに帰る道
でもたぶんまた 来ると思う
雲の上で あなたに会いたくて
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