**「山霧のむこうに」**
山あいの村に、朝霧が静かに降りる。
草の葉先に残る露が、
小さな星のように瞬いている。
川のせせらぎが、遠くから私を呼ぶ声のようで
貴方がまだここにいる気がした。
あの古い橋の上、
川面に映る木漏れ日が揺れて
私たちの影をそっと抱きこんでいた。
木の香り、湿った土の匂い、
風が運ぶ野の花の香りまでも、
すべてが貴方と過ごした日々の記憶になっている。
貴方が笑うと、鳥のさえずりさえも
その旋律に合わせて踊るみたいだった。
夏の夕立のあと、
石畳に光る水滴は、まるで空の涙の名残り。
村の祭りが遠くに消えても
水面に映る灯は、貴方の微笑みのようで
私はその中でそっと手を合わせる。
川沿いの柳が揺れるたび、
その音は貴方の声を運ぶ風になっていた。
枯れ葉が舞う小道を歩くと、
ひとひらひとひらが、貴方との思い出の断片になる。
「笑って」と言った貴方の声が、
落ち葉の隙間から、静かに私の胸に降り注ぐ。
光の方へ 歩いていくよ
山霧の向こうに貴方がいる気がして
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朝露に濡れた野の花が揺れるたび、
貴方の声が風に重なる
もう戻れない道でも、
私は、貴方の愛を抱いたまま生きていく。
雪が山の峰を覆うたび、
世界は静寂に包まれ、
貴方の温もりだけが、私の心を溶かしていく。
窓辺の灯りが、雪に反射して揺れると
それはまるで貴方の瞳の輝きのようで
私はそっと微笑む。
光の方へ 歩いていくよ
新しい陽が山の端を染めるころ
小川に映る光の粒が、貴方の笑顔のようで
私は今日もそっと微笑んでいる
この命が終わる日まで
貴方を愛した季節を抱いて
光の方へ―― ゆっくりと前へ。
貴方がくれた“さよなら”は、
私にとって“生きること”の意味だった。
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