








**「山の向こうで語るもの」**
空はは見ていた ひとりの影を
山は黙り 風はただささやく
川は絶え間なく 歩みをせき止めず
その背を押すのは 見えない運命の手
そこには小さな家 灯がひとつ
別れの気配に 誰もが息を潜めていた
観客のような森が ざわめきで答え
空は雲を裂き 涙を流していた
山の向こうで 誰かが呼んでいる
「愛している」と 言えぬまま
引き裂かれる心を 舞台に晒して
傍観者たちは ただその行方を見ていた
風は覚えていた あの夜の沈黙を
揺れる灯りに 影は深く沈み
やがて稜線の彼方へ 足音を刻み
砂利の響きだけが 残響のように消えた
山の向こうで 誰かが呼んでいる
川も森も その名を繰り返す
傍観者たちは 涙を抑え
それでも目を逸らせず 最後の背中を追った
やがて 空は静かになり
鳥たちは沈黙を選んだ
残された窓は 空っぽの舞台のよう
ただ木々だけが 「帰らぬ」と囁いていた
山の向こうで まだ声が響く
「愛している」と 届かぬまま
傍観者たちは その言葉を拾い
胸にしまって 幕を下ろした
誰もが知っていた これは終わりであり
そして始まりでもあることを
山は立ち尽くし 風は証言者となり
傍観者たちは 静かに立ち上がった
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