








**「白き峰、揺れる心」**
朝靄に濡れた 草の上で
君は振り返り 笑みを浮かべた
その光に 私の胸はほどけ
未来をまだ信じていた
小石の道を 踏みしめながら
「頂に着いたら 何を願う?」
君の声は 澄んだ風に溶け
私は曖昧に 頷くだけだった
青い空の下 笑い合うたび
隠しきれない不安が影を落とす
それでも握った手の温もりは
谷間の沈黙さえ 祝福に変えた
やがて雲は集まり 光を奪う
蝉の声すら 途絶えてしまう
ふたりの間に 冷たい沈黙が張り付いた
「聞いてる?」 君の問いかけ
ざわめきにかき消され
私は答えを胸に隠す
「同じ景色を まだ見てるのか」
白き峰よ 私たちを映せ
揺れる心を 雲に託して
裂け目から差し込む 一瞬の光に
まだ愛を見出せるのか
雨は頬を打ち 視界を奪う
君の手が 離れそうになる
「もう戻ろう」 そのかすれ声に
私は答えを見失った
ひとつの道に 二つの影
寄り添うようで 背を向けるようで
ざわめきの下 心は裂け
登るたび 距離だけが広がった
霧が晴れ 夜空が広がる
「どうして黙っているの」
君の声は 途切れ途切れに震えて
それでも私は 沈黙に答えを託した
見上げれば 無数の星々
それは言葉を超えた証し
「ここにいる」 ただそれだけが
山と空に刻まれていた
白き峰よ 私たちを赦せ
同じ頂を目指さずとも
それぞれの心に燃える 小さな炎が
互いを照らし合うなら
朝が来て 雲は散り
風は祈りのように 頬を撫でた
君の横顔に 疲労の影が残る
それでもその瞳は まだ私を探していた
私はただ 君の手を取り
言葉ではなく その温もりで
まだ歩けることを 確かめ合った
足跡は やがて風に消えても
白き峰の上 揺れる心は
私たちの胸の奥で
永遠に 輝き続ける
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