








**「夏の稜線、あなたの背中」**
すれ違う登山客が「あと少し」と笑って
あなたはそれに頷き 足を止めなかった
私は息を整えながら あなたの背中を追った
言葉ひとつなくても それがすべてだと思ってた
ザックのポケットに しわくちゃの地図
何度も折られた道順が まるでふたりの時間みたいで
途中の滝で 水をすくうあなたの横顔
あの笑顔を、私は あと何回見られるだろうって考えてた
ねぇ この空の下で 同じ景色を見ているのに
どうして心は こんなに違う場所にいるんだろう
夏の稜線をなぞる雲の影が あなたの瞳に揺れてた
私たちはいつから 違う方角を歩いてたの?
途中で見た雷鳥 必死に親から離れまいとしてた
私はあのとき あなたに何を求めてたんだろう
ただ、もう少しだけ振り向いて
手を伸ばして 笑ってくれたら
それだけでよかったのにって思ってた
ねぇ この陽射しの下で まぶしさに目を細めながら
心の中では どうしても言えないことばかり
夏の稜線 風が抜けていくたびに
何も言わないあなたが やさしくて つらくて
私 もうすぐ泣いてしまいそうだった
ふたりが並んで写る影 少しだけ距離があった
でもそれも 光のせいだと 信じたかっただけ
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