








**「空の遺言」**
風が止んだあの瞬間に 空が涙を落とした
K2の孤高なる壁に 二つの影が消えていった
まだ踏まれていない道を あなたたちは信じていた
命よりも深く、遥かに重い 想いを背負って
誰も見たことのない景色を その眼に刻むために
呼吸すら奪われる場所へ 静かに挑み続けた
夢を追う背中は 言葉より強く
「ここに生きた」と 語っていた
空の果てに名を刻みし 二人の魂よ
まだ見ぬ道を照らす灯火となって
この地上に残された僕らに 教えてくれた
本当の「挑む」という意味を
標高七千五百五十 その天の縁(ふち)
雪と雲の境界線に 立っていたあなたたち
言葉も届かぬ場所で 誰にも頼らずに
ただ、山と向き合っていた――
撮影の瞳が捉えたのは 祈りにも似た滑落の軌跡
だけど、落ちていったのではない
あなたたちは 空に還っただけ
風に乗って飛んでゆく 二人の意思は
この星のすべての山に 今も息づいてる
「まだ行ける」と誰かが言うとき そこに宿ってる
あなたたちの 決して折れなかった心が
――戻ってこないと 分かっていた
それでも、空を見上げれば
あなたたちがまだ そこにいるようで
山は、やさしく 黙っていた
だから今、手を合わせて 空に祈る
「ありがとう」と「忘れない」が 混ざり合う風に
未踏のままでも あなたたちが通ったその道は
永遠に記録された 空の遺言(ことば)
――空の、遺言。
僕らが、次へと、受け継いでいく。
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