








**「きみのカップに朝を注ぐ」**
風がカーテンを揺らす朝 誰もいないはずのキッチンで
ひとりきみのマグカップに コーヒーを注いでいた
パンを焼く香りにまぎれて 涙がじんわり広がる
テレビは笑ってるけど 誰の声も届かない
ふと 昨日の夢の中で
きみがまだ笑ってた気がする
それだけで今日を生きてしまえるなんて
不思議だよね
いないのに ここにいる
言葉より 深く染み込んで
君がいた頃の私は 今より少しだけ強かった
きみのカップに朝を注ぐ
そんなことさえ まだやめられないまま
駅まで歩いた小道に 咲き残る名もない花
ふたりで決めた名前さえ もう思い出せないくせに
毎日がすこしずつ 遠ざかるのが怖くて
だけどそれを止める手だって もうないこともわかってる
わたしだけが時の中
あの日から動けずにいる
でも たぶん誰よりも
きみの幸せ 願ってる
ねぇ それでも夢に出て
また笑ってくれたらいいな
それだけで また朝を迎えられるから
(遠くできみの声が聞こえるような気がする…)
いないのに ここにいる
やわらかな残像(おもかげ)が
風の音と溶けていくまで
わたしはここで 手を振ってる
きみのカップに朝を注ぐ
それがきっと わたしの愛し方
誰にも見えない やさしい朝が
今日もひとり 訪れる
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