








**「雨音にとけて」**
あの日の傘が まだ玄関にある
差せなかったまま 時間だけが過ぎた
君が好きだった アジサイの咲く道
今も色を変えて 季節を知らせる
通り雨に濡れた 君の髪を見て
なぜか何も 言えなかったね
優しい戯(たわむ)れが この胸を濡らす
真実よりも 深く染みてた
「平気だよ」と微笑んだ声
耳の奥 残ってるまま
忘れたいわけじゃない
忘れなきゃって思っただけ
雨音にとけて 君の名を呼ぶ
もう会えないと 知っていても
やさしさだけが 残る午後には
涙も 音も 静かに揺れてた
綴られた言葉が 引き出しに眠る
読めずにいたまま 時が過ぎた
笑いあった日々も 喧嘩の夜も
今はどれも かけがえのないもの
交わさずにいた 最後の言葉
今も胸に 引っかかったまま
終わることを 誰より
気づいていたのに
雨音にとけて 君の声がする
風にまぎれて 届いてくる
胸の奥には まだ温もりが
消えずにそっと 灯っているから
雨音にとけて ひとり歩き出す
振り返らずに 傘をさして
濡れた空でも きっといつかは
光がそっと 差してくるから
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