








**「花束のかわりに」**
まばたきの奥で
遠ざかる背中を見送る
名前のない風がひとつ
残された時を撫でていく
素直になれた記憶はない
心を伏せたまま 選んだ沈黙
ひとつの言葉が あれば
すべて変わったかも しれない
優しさの形を 間違えたまま
愛に似た影だけを 握っていた
光よりも早く 終わりが来て
何も渡せなかった
だから
花束のかわりに この静けさを
音も香りもない祈りを
記憶の隅に 置いていく
咲かなくてもいい 残らなくても
ほんの一瞬 君を照らせたなら
涙は見せなかった
見せる資格も もうなかった
誰かのやさしさが
君を包むことを ただ願う
正しさに触れられず
選んだ別れが 罰になるなら
それもかまわない
君が自由なら
そう
花束のかわりに 沈黙を
語らずに済むやさしさを
傷の上に そっと
時が積もるように
季節だけが通りすぎてゆく
風が吹いて ひとつの影が揺れる
そこに立っていた証は
誰にも見えないまま
それでいい
それがいい
そして
花束のかわりに 記憶を置いていく
飾るでもなく 飾られるでもなく
名もないまま 心の底で
そっと 咲いていたものを
時の奥へ沈むだけ
言葉はもう いらない
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