








**「音の檻(おとのおり)」**
深夜の下 北スタジオ 窓は雨を打ってた
一人きりの鏡の中 鼓膜が揺れる
「お前、本気で天下を獲る気か?」
響く声が また胸を裂いた
彼女と聴いた深夜ラジオ ジャズに少し照れながら
無名のドラムソロに 涙こぼした日
あの横顔 今も焼き付いてる
音に恋をしてたのは きっと二人ともだった
「テンポがズレたな」
白いチョークが床を打つ
渋谷の喧騒すら 遠くに聞こえた
何度もスマホに 未読のメッセージ
僕は…返せなかった
教官(せんせい)の眼は 秒針みたいで
外さなければ それでいいと
「良くない、全然ダメだ!」
僕はまだ人間か? 自動演奏か?
愛も、音も、壊してゆくのか
本番前の廊下 手のひらが震えてる
彼女がくれた小さなピアス
ポケットの中で 温もりだけが残った
「私より音を選んだね」
その言葉が 今も痛い
「完璧しか意味がない」
大声で叱咤されても
血の滲むスティックを握りしめて
「それでも、ここにいたい」
愛を置いても、夢に届くまで
誰かの心を打つまで
僕はただ 叩き続けた
心の奥で誰かが泣いてた
君も、夢も、全て音に変えて
あの夜のスタジオに
カミナリのような嵐が鳴っていた
……君。
……今、僕、叩けてるよ。
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