







**「灯りの向こうに」**
ひとり分のカップ 冷めたまま
台所に 朝の影が差し込む
「行ってきます」って声も もうないけど
毎朝 私は 同じように立ってる
靴音が響く歩道橋
雨がやんで 街の色が濃くなっていく
あなたのいた季節が まだそこにいるみたいで
ねぇ、忘れたふり してたのに
あの夜の「ごめんな」は
静かに沈む夕凪のよう
誰も悪くなかった
けど どうしても傷つけてた
灯りの向こうに あなたがいた
何も言わずに ただ佇んでた
私たち、選ばなかった未来を
まだ 胸の奥 抱いてる
ほら、あの時も風が吹いて
白いシャツが揺れてたよね
鳥の声と 誰かの笑い声
いまも耳に残ってる
地下鉄の音 重なっていく心臓の鼓動
何も話せなかった帰り道
あの小さなベンチで見た夕焼け
「ここにいたい」って 心で叫んでた
交わらない線の上で
私たちは 何度もすれ違って
でも一度だけ 重なった瞬間が
今も消えない、ずっと…
言葉じゃ足りなかった
涙も、怒りも、沈黙も
全部、愛の形だったって
やっと今なら思えるのに
灯りの向こうに あなたはいない
でも私はまだ あの夜に立ってる
愛した分だけ 痛みは残るけど
それでも 忘れたくない
手を伸ばせば 届きそうな
すれ違いの記憶の中
あの時見た空の青さだけ
今も 心を染めてる
ひとり分のコート まだしまえない
いつか、いつか、笑える日まで
ねぇ、忘れたふり してても
ほんとはずっと 忘れてない
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