








**「灰の庭で、君を呼ぶ」**
「ここは いつかの春の日 でも風が冷たくて……
君の名前だけが ずっと耳に残っている……」
壊れた窓越しに見た 青の空は嘘だった
毎朝聞いた鳥の声 今は金属の鳴き声に変わった
見えない何かが この背中を追い越していく
爆音の向こうに置いてきた あの日のまばたき
ほつれた縫い目を指でなぞるたび
生きることの意味が また曖昧にぼやけてく
逃げ場もなく ただ黙って祈っていた
「なんもなくても、あるけえね」 その言葉だけが灯だった
濡れた庭先に 踏みしめた小さな足跡
赤い椿が 無言のまま散っていく
繋いだ手の温もりが 指先からほどけていく
それでも まだ、ここにいる
白く染まる記憶の底で
君の名を呼び続けた
返事はないとわかってても
それでも、呼びかけずにはいられなかった
焼け落ちた夢の中で
手を伸ばすしか できなかった
「あんたが… おってくれて… よかった」
その声が まだ胸を震わせる
十年前の影が 壁に張りついて離れない
笑い声が混ざった風が また頬をすり抜ける
知らぬ間に失ったものが 数え切れなくなった日
名前すらも 記憶の底に沈んでゆく
でも それでも
胸の奥の畳の匂いが まだ消えないんだ
あの朝見た夢 君が振り返って笑ったその一瞬
それだけが まだ、私を止めてくれている
焼けたノートの端に まだ残ってた言葉
「描くのが好きだった」
色鉛筆一本で 世界を彩れたあの頃
風が吹いても 雨が降っても
君のいた場所に 色は残ってる
だから私は 歩き続ける
消えてしまったものを 思い出すために
呼んでる あの日の自分が
灰の庭の中から
祈ってる 忘れないでって
生きてきた証を残すために
壊れても、失くしても、
君の声がある限り
この片隅で
私はまだ、
光を探している
「また明日、逢えるように」
「この手を離さんけえね」
投稿者 | スレッド |
---|