







**「花びらが落ちる前に」**
海沿いの街は 春の匂い
駅までの坂道 桜がこぼれる
「ここで暮らすの、もう慣れたよ」
君は静かに 左手を外した
屋上に登る癖が まだ残る
あの頃の夢、いまも信じてる?
回らない扇風機 埃をかぶって
時間だけが 大人になった
あの夜 見た花火の音が
胸の奥でくすぶってる
交わした言葉じゃなくて
黙った沈黙が 終わりを告げた
花びらが落ちる前に
君をもう一度、抱きしめたかった
春風に紛れて 届かぬ声が
通い慣れた路地に消える
言えなかったごめんも 足りなかった勇気も
まだここに、置き去りのまま
神社の裏 古びた並木道
毎年、同じように咲くのに
ふたりだけ 戻れない
どこで、違ったのだろう
仕事に追われ 言い訳重ね
未来さえも計画で縛ってた
「好きだったよ」その一言が
やけに大人びていて 苦しかった
ふざけた声も 拗ねた背中も
春の光に滲んでいく
何も変えられなかった僕が
今さら 風に問いかけてる
花びらが落ちる前に
言葉じゃなくて 温度を伝えたかった
あの日見た夢の続きより
君の笑顔が見たかっただけ
季節が巡るたびに 同じ景色が
やさしさと痛みで染まる
傘を差すには 早すぎた午後
最後に見た背中は まっすぐだった
別れは、誰かの春を
ひとりにするね
花びらが落ちる前に
名前を呼べば 間に合ったかな
大人になったふたりが
初めて泣いた春だった
屋上から見下ろした 世界の片隅で
君だけが いまも色づいてる
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