








**「遥かなる背中へ」**
彼は言葉を多く持たなかった
代わりに歩いた 何百という峠を
小さな地図に記されぬ谷間に
彼だけが知る真実があった
仲間たちは 時に彼を謎と呼び
笑いながらも どこか怯えてた
だがその背にある沈黙の意味を
誰も本当には理解できなかった
風が吹けば 彼の足跡は消える
まるで初めから この世にいなかったように
けれど、彼の目が見ていたものは
俺たちが見落とした命の輝きだった
遥かなる背中へ 彼は何を託したのか
ただ静かに ただ深く 山へと溶けていく
孤独は罰じゃない それは祈りに近いもの
誰にも届かぬ場所で 彼は自由だった
ときに彼は立ち止まり 空を見上げていた
まるで答えを求めるように あるいは問いすら超えて
その胸には 何を隠していたのか
誰も知ることはない けれど確かにそこにあった
かつての夢は もう誰にも語られず
古びた日記に 掠れたインクが残るだけ
“最後の季節が来た”と書かれていたページは
涙のように 風に破かれていた
彼は逃げたのか? それとも見つけたのか?
この世界の答えか、それとも無音の真実か
誰も彼を責められない なぜなら
俺たちは 彼ほど本気で 生きてなどいなかった
遥かなる背中へ その光と影を抱いて
彼は歩いた 何も持たず 全てを持っていた
命の鼓動が聞こえた場所へ
山は静かに答えていた
「ようこそ」と—まるで、彼だけに届くように
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