








**「山影の約束」**
朝日が斜面に差し込み 草の葉を金色に染める
湿った土の匂い、朝露が靴底にまとわりつく
「早く行こうよ」君の声は涼しい風のように
僕は息を整え ザックの重さを肩に感じる
足元では小さな石が転がり 遠くで小川がせせらぐ
木々の影が揺れ、光の粒が舞い
心臓の鼓動はまだ静かで これから始まる険しさを知らず
僕らの笑い声だけが 澄んだ朝の空気に溶けた
風が岩肌を叩き 冷たい息を吹きつける
「ちょっと待ってよ!」僕は声を上げる
君は振り返らず 「大丈夫、着いてきて」
でも目の奥にわずかな焦りの色
石に躓くたび 胸に小さな痛みが刺さる
足元の砂利が崩れ、思わず手をつく
同じ山を歩くはずなのに 距離が生まれて
言葉にならない不安だけが空に漂う
太陽は頭上で刺すように照りつけ
岩肌が白く輝き、眩しさに目を細める
汗が肩から背中を伝い、乾いた風で冷やされる
「大丈夫?」小さく問いかける声に
「大丈夫…でも少し疲れた」君は俯く
風が木々を揺らし、枝がざわめくたび
遠くの崖で鳥が叫ぶように鳴いた
雷雲が稜線を黒く覆い、影が落ちる
僕らは小さな岩の段差に手をかけ、必死で進む
一歩一歩、互いの温もりを頼りに
雲が押し寄せ、冷たい雨粒が頬を叩く
雷鳴が谷底に響き、心の奥まで震える
「置いていかないで!」君が叫ぶ
「絶対に離さない!」僕は岩を掴み返す
雨で濡れた草が滑り、足元が危うい
風が全身を巻き込み、叫びもかき消す
雷光に映る君の顔が一瞬、怖くて美しい
それでも手を取り合い、嵐の中を前へ
霧がゆっくり晴れ、橙色の光が山肌を染める
小川の水音が遠くで反射して、静けさを運ぶ
足元の石は冷たく、指先が痺れる
「もう少しだよ」君の声が心に沁みる
山頂の影が迫り、風は柔らかく、呼吸を整える
「来てくれてありがとう」小さな声が木霊する
鳥の群れが空を舞い、谷の向こうで雪解け水が煌めく
疲れた体を寄せ合い、頂を目指すその瞬間
僕らの影は長く伸び、夕陽に溶けていった
雲を超えた場所で 君と見下ろす世界
険しさよりも 静けさと優しさが広がる
汗も泥も 涙も抱きしめて
「ここまで来たね」 全てが宝石に変わる
風はもう冷たくなく、鳥の歌が祝福する
嵐で刻まれた恐れも 山の景色に溶け
手を繋ぎ、深く息を吸う
山影の約束を胸に まだ知らない明日へ
山影の約束…
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