








**「遠い稜線の向こうへ」**
夕立の音にまぎれて あなたの声が聞こえた気がした
ザックの重さより 心の方が沈んでた
「もう少しで頂上だよ」って 笑って先を歩くあなたの背中
あたしは答えられずに ただ黙って空を見てた
前の夜 テントの中で 些細な言葉で喧嘩になった
あなたは黙って外を見てて あたしは寝たふりしてたね
登るほど言葉は減って 心の距離だけが増えてった
でもなぜか 引き返すことは 考えもしなかった
もう戻れない場所にいる 二人しかいないこの尾根で
怖いのは高い崖じゃなくて あなたの目が遠いこと
風が吹いても何も飛ばせない 溜め込んだ言葉だけが残る
どうして こんな夏の青空に あたしは迷っているんだろう
小さな花を見つけて あなたが笑う
その一瞬だけで また好きになってしまう
でも心の氷は溶けきらず まだどこかに引っかかってる
いつかあの谷で何かが終わったような 気がしてるのに
一緒に登ってきたはずなのに 同じ景色が見えてない
言えなかった言葉の数だけ 足跡がまばらになってく
山の上じゃ隠せない 心の揺れが浮き彫りになる
でも… たぶんまだ あたしはあなたを失くしたくない
「ここから先、滑落多いから気をつけて」
その声に救われたくせに 強がって「大丈夫」って
あたしも 本当は怖くてたまらなかった
あなたの手を もう一度 ちゃんと掴みたかった
もう一度 同じ尾根を登れるなら
言葉より先に手を伸ばすよ
山の向こうに見えたあの光 信じて進みたい
違ってたっていい すれ違ったって
あなたと登る景色を まだ見たい
……風がやんで 雲が流れて
あなたが振り返る
ただ それだけで 泣きそうになった
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