








**「銀の声と錆びた光」**
…ねえ、覚えてる?
あの部屋、窓の外がすぐ高速道路でさ
トラックの音がずっと低く響いてて
それが逆に 心地よかったんだよね
君が急に 昔のレコード出してきて
「これ、まだ鳴るかな」なんて言ってたけど
ちゃんと鳴ってたよ
少しかすれたみたいな音でね
あの頃、私たち
なんでもない空気の中で
ちゃんと、愛してたと思うんだよね
言葉とか、すごく少なかったけど
例えば 朝、君が入れた苦いコーヒーとか
玄関に脱ぎっぱなしのスニーカーとか
なぜか全部、今も思い出せるのが
ちょっと悔しいんだよ
風の音に混じって
たまに君の声が聞こえる気がする
…まぁ気のせいなんだけど
それでも 少し立ち止まるの
だから 銀の声で名前を呼ばないで
もう、あの頃の私じゃないのに
君のくしゃっと笑う顔が
どうしても 頭から消えなくてさ
焼け残った手紙のかけらが
引き出しの奥で まだ光ってる
でもね、それって
もう愛とは 呼べないんだよね
最近ね 誰かと笑いあう時間もあって
少しずつ生活が 変わってきたよ
でもふとした瞬間に
君の癖とか、出てきちゃうの
「またそれか」って、自分でも笑うけど
たぶんそれだけ君が ちゃんとそこにいたんだと思う
忘れることって 簡単じゃないんだね
…案外
音ってさ、
記憶より正確に 人を呼び戻すよね
笑い声の高さ、扉が閉まる音
君のキーホルダーの小さな鈴の音
だからもう 名前を呼ばないで
懐かしさに負けそうになるから
少しずつ前に進んでる私を
振り返らせないで
街の匂いも変わったし
新しいコートも買ったし
もう私、
君じゃなくても 笑えるから
さよならって言わなかったの
今でも、正解だったか分からないけど
でもね
それで良かったんだと思う、今は
投稿者 | スレッド |
---|