








**「路地裏ノ夜に」**
ほら 窓の外に またネオンが滲んで
あんたの影が ふっと 浮かんだような気ぃして
ライターの火 風にゆらいで
胸の奥が またちりちりと疼(うず)くんよ
干したシャツから あんたの匂いが ふと香って
ほんま ずるいおひとやわ
置いてきぼり しはったくせに
残り香だけ 置いていきはるなんて
どうせどっかで ちゃう女(ひと)と笑うたはるんやろ
うちらのことなんか もう忘れはったんやろな
せやけど 夢のなかだけは
まだ わたしの名前 呼びはるんよ
あほみたいな話やろ? 笑うてくれてもええ
うちは あんたがほんまに 好きやったさかい
情けない女やて 思われても
あのぬくもり まだ忘れられへんのやわ
なんべんも 嘘つかはった
けど 目ぇだけは ずっとまっすぐやったんよ
どこで道 ちごうたんやろな
どの時 引き止めとくべきやったんやろなぁ
古びた便所のタイルに腰おろして
ポケットの底から しわしわの写真ひとつ出してみる
泣きもせぇへん 怒りも出ぇへん
ただ 心の底が しんしんと冷えてくだけ
外では また笑い声がして
遠くのラジオが 何か陽気に歌うてる
せやけど この胸ん中は
今夜もまた ただただ あんたを呼んでるんえ……
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