









**「窓辺の風に聞いてみる」**
あの朝はね、ほんのすこしだけ、空がやさしくて
カーテン越しの光が 誰かの手のひらみたいに 頬に触れたんだ
台所の椅子に腰かけて まだ冷たいマグカップを両手で包みながら
夢の続きを ひとくち ひとくち 飲み干してみたの
まるで 何かが始まる前の静けさ
…だけど 始まる気配なんて この部屋にはもうずっとなかったんだよ
わたしね、ずっと誰かのためにって 思ってたの
それが愛だと思ってた たぶん間違ってなかった
でも どうしてだろうね、
いつのまにか、わたしの中の「わたし」が
小さくなって 声も出せなくなってた
気づいたら、鏡の奥で目を伏せている人がいてね
あぁ あれ、わたしだったんだなって
いつか別の道を選んでいたら
この手に 何か違うぬくもりが あったのかなって
…そんなことばかり 考えてしまう日が増えたんだよ
だからさ、
もし 風になれるなら ここから飛んでいきたい
名前のない 知らない町のベンチで
知らない誰かと 昔話でもしながら
歌のような午後に ただ身をまかせてみたい
このままじゃ わたし
夢を見る力さえ 忘れてしまいそうだから
アルバムの中の私は ちゃんと笑ってるのに
思い出のなかの私は もう声も出さなくて
ひとつひとつの瞬間が こんなに遠く感じるのは
それだけ今が 無音に近いからなのかな
だけどそれでもね、朝になれば 目は覚めるし
顔を洗って、髪をとかして
いつも通りのわたしを演じている
ほんの少しだけ 揺れているカーテンの向こうに
まだ、何かあるかもしれないと 思いたくて
ねぇ もし あなたがここにいたなら
そっとわたしに あの頃のわたしを語ってほしい
もう少しだけ 光を信じられるように
もう少しだけ 歩けるように
名前も持たない この毎日にも
意味があったと 言ってもらえたら
たぶんそれだけで わたしは 救われる気がするの
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