








**「風鈴が鳴ったら」**
とうきょう、疲れたって顔してる
あなたは笑って 風を見てた
縁側に並ぶスイカの種
数えてるうちに 夕焼けだった
「この村、変なとこだけどさ」
って言って そっと私の手を取った
たんぼの向こう、あかりがぽつり
初めて聴いた 神楽(かぐら)の音
あれから突然、届かなくなった
電話もLINEも、なにもかも
探しに来たの、この夏を
あなたの声を もう一度だけ
「来ると思ってた」
ふと耳元で 聞こえた気がして
振り返る川辺の風
ゆれる灯篭が まるであなた
「ここじゃね、忘れるのがマナーなの」
浴衣の少女がそう囁いた
山の奥で、誰かがまってる
白い面(めん)に、あなたの癖
「帰らなくていいのか?」
あの夜の声が 頭を離れない
祭りの終わり 火が消えると
あなたの影も 霞んでった
「次の夏も、同じ場所で待つ」
それが最後の言葉だった
あの提灯の下の誓いを
いまもずっと 抱いているのに
「忘れていいよ」って言うなら
あなたがちゃんと 消えてほしい
でもほらまた、風鈴が鳴る
その音が、呼んでしまうの
「もう行こうか」って背中越しに
誰かの声が私を包む
振り向かずに歩き出すその先
風の中、あなたが笑った
夏がまた来て、山が揺れて
風鈴が鳴ったら、思い出す
あなたがいた 村の匂い
今も胸の奥、消えないまま
あなたに もう会えなくても
私は ちゃんと生きていくわ
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