








**「誰かじゃなくて」**
波の音が 夜をさらっていく
ほんの少しだけ 思い出してもいい?
あの坂道 蝉の声が
シャツの背中に 張りついていた
「ねぇ、どこへ行くの?」
言えないまま あなたの影を追った
ふたりきりの 海辺の午後
なぜ笑って 背を向けたの?
誰かじゃなくて あなたがよかった
時を巻き戻せたなら 言えるのに
「好きだった」とか そんな浅い声じゃ
波にさらわれて しまうでしょ
図書館の本に はさんだ紙片
あなたの筆跡が 今も残る
無言のままの 言葉たちが
胸の奥で 熱くなる
やめてよって 言えたなら
違う未来も あったかな?
誰かじゃなくて あなたがよかった
ただ傍(そば)にいるだけで 良かったの
「忘れて」とか 優しい嘘でも
信じたかった 最後まで
夕暮れ 傘もささずに
バスを待っていた あの海沿い
濡れた髪が 風に絡んで
何もかも 飲み込んだの
誰にもなれない 私でいたかった
あなたのまなざしの中で ただ一人
忘れないでと 叫べたなら
こんな風に ひとりじゃなかったのに
波がまた 名を呼んでいる
「さよなら」も まだ言えずに
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