








**「渡り鳥の唄」**
ああ、俺かい?
そうさ 風まかせに生きてるただの旅人だ
産まれた町なんて もう覚えちゃいない
気づいたら 誰もいない道を歩いてたんだ
あの日からずっとさ、
荷物なんて持たずに、唄ひとつ 背中にぶらさげて
時々 誰かとすれ違っちゃ また独りさ
どこかで 陽が沈むたびに思うんだ……
「まだ歩くんか、俺は」ってな
あの人のこと?
……ああ、昔ひとり、待ってくれた人がいた
優しかったよ、本当に
でもな 俺の足は止まんなかったんだ
そいつの手を振り切って また道へ出た
「何を探してるの?」って聞かれたけど
答えは今でも見つかってねぇ
ただ、気がつくと どこかで唄ってんだよ
川の音にまぎれてさ 俺の声が、まだ残ってる気がすんのさ
俺はもう、あれだな
誰かのために生きるってのは向いてなかった
でもな、不思議と人のぬくもりが
今も胸の奥に 灯みてぇに残ってんだ
誰もいない夜道、星も出てねぇのに
そいつが笑ってる顔、ふっと浮かんだりしてよ……
あの時戻れたらなんて、バカなこと思っちまう
でももう遅ぇってな、こんな風に唄ってる時点でよ
……それでもな
振り返ると、何もねぇはずなのに
踏みしめた土のにおいだけは、なぜか覚えてんだ
誰の声も聞こえない場所で、俺の唄だけが響いてさ
それで十分だって…… 今はそう思ってる
そうさ、この声が誰かに届くなら
遠くで生きてる誰かの胸に 何かが残るなら
そいつに伝えてくれよ
「俺は今も この唄と一緒に歩いてる」ってな
風に吹かれて、今日もまた
どこかへ向かってるわけでもなく
でも足は止まらねぇ
唄がある限りな、俺は、唄ってくさ
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