







**「雨のキャンバス」**
静まり返る美術館の午後
雨音だけが遠く響く
薄暗い廊下の先で
君の横顔を見つけた
額縁の中の青い空
その下で並ぶ二つの影
「この絵、いいですね」って
小さく呟く声がした
「奇遇ですね、また会いましたね」
そう言う君は少し濡れていた
「雨、強くなりましたね」
僕はただ頷いた
言葉は少なく 目が語る
にじむ絵の色に心を隠す
並んでいても 遠く感じる
この距離は変わらないまま
窓の外、ぼやける街並み
雨粒が硝子を滑り落ちる
君の指がそっとなぞるのは
曇ったガラスの向こうの景色
「どこかで見たことある気がする」
そう呟く君の横顔
その記憶の中に僕はいない
それが少し寂しくて
「寒くないですか?」
君は小さく肩をすくめた
僕は何も言えなくて
コートのポケットを握る
言葉は少なく 目が語る
にじむ絵の色に心を隠す
すれ違うほど 惹かれてく
君の心はどこにある?
並んだ靴の間に
濡れた傘がひとつだけ
赤い絵の前で立ち止まり
言葉より長く息を吐く
美術館の雨の匂い
指先が触れそうで触れない
次に会う日が来るまでは
この景色を覚えておく
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